第5回オープン・ド・パリ国際空手道選手権大会 奮闘記
報告者 長谷川行光 個人形第三位


1/14(月)12:30
日本各地の空港から選手,コーチがソウル国際空港乗り継ぎゲートにて集結。
オープン・ド・パリ国際空手道選手権結団式がコーチの西村誠司先生、ジュニア二名を擁する特別参加の松本俊夫先生を中心に行い大会必勝を誓い、いざフランスへ旅立った。
今大会のメンバーはナショナルチームから西村誠司コーチと選手12名。特別参加者の2名、ジュニアコーチの松本俊夫先生と選手2名。後に合流した内田塾で知られる(元全日本メンバーで大活躍しておられた)内田順久先輩は現地応援にわざわざ来られた。コーチ1名、選手14名、特別参加4名の総勢19名。
ソウルから12時間後、パリのシャルルゴール国際空港に到着。
空港にはフランス連盟のナショナルチームコーチとして活躍している糸東流の中橋秀利先生と同連盟のジャック・ロー氏の出迎えを受けそのままホテルへ直行。ホテル内で夕食(ヒレステーキ)を食べた後、就寝。
ホテル宿泊は大会日前日より大会期間中の金、土、の2日間であるが、中橋先生を介したフランス連盟の配慮から日本チームのみ特別に、事前宿泊5日分と朝昼晩の食事を面倒見て頂いた事は本大会自己負担という性質上、感謝するところである。
また大会までの4日間、オリンピック柔道連盟の施設にて2時間の稽古。こちらも中橋先生のご配慮で特別日本チーム限定という条件で練習会場を準備して頂いた。
日本チームだけの待遇の違いに中橋先生には感謝せざるを得ない。
中橋先生といえばサムライ精神で一早く空手をフランスに普及競れた先生のお一人で現在はフランス連盟の技術最高委員の一員であり、高段者指導資格委員としても貢献されている。
そしてその人格、風貌から本当に映画「サムライ」に準主役として抜擢され、2002年3月ヨーロッパを皮切りに映画デビューするそうです。日本で上映の際は是非ご覧あれ!。

話戻って、大会までの日本チームの調整は朝10:00〜12:00まで仁木孝博、宮本佐知子両キャプテンを中心に気合の入る中、西村コーチの多彩なウォーミングアップと細かいヨーロッパ対策をアドバイス。出血大サービスの技の披露に樋口大樹選手は涙が出るほど喜んでいたとか。
午前の集中した練習後のフリータイムには、せっかくフランスまできた為ホテルに閉じこもるのではなく、観光地を回ったり、土産物を散策したりして見聞を広げる事でリラックスと国際的感覚を養った。移動はメトロ(地下鉄)を利用。約1ユーロ(125円)のチケットでパリ市内はどこまでも使え、しかもメトロとバス兼用というのも日本と違ったシステムに驚かされる。免税品売り場の店員に尋ねた事だが、一連のテロの影響で観光客は激減しているという。売上が80%ダウンしており、この時期(1月はブランド品バザー)の免税店に群がる日本人の姿も以前とは比較できないほどで、店員も嘆いていた。
あとエッフェル塔、凱旋門、ルーブル美術館、ブランドブティック等、花の都パリの印象とは裏腹に道路に犬糞が散乱しているのは別の意味で印象的であった。「本当に下を向いて歩かないと大変なんです。」と言うのは森選手。
この時期もうひとつの楽しみとして忘れてならないものが特産の生ガキである。日本のそれとは比較にならない程の質とボリュームで絶品。魚介類専門レストランも多い。
一人5,000円程で十分だがおいしいワインにも誘われ、ついつい予算オ−バーしてしまった。
あと料理が出てくるまでの時間が長い。団体で行くと2時間以上も要した。
海外では当たり前だが、その待ち時間に会話を楽しめなければインターナショナルではないと思う。日本のように5分、10分待たされていらいらする感覚は海外ではナンセンスである。
スリ差し押さえ事件!
 自由時間を利用して選手は市内に買い物に行った際、電車内でスリの現場に出くわしてしまった。
渋谷選手に子供が近寄り、くっつくように通り過ぎようとした時である。ポシェットのチャックを巧みに開けすばやく財布を抜き取った。同乗していた我らがキャプテン、仁木選手がその動物的直感で異変を察知し、少年の手にした財布を見つけたのだ。「おらー、なにすんじゃい!」仁木選手の大声にびびった少年は財布を落とし、「落ちてるよ」と言わんばかりにとぼけるも、警察に出頭させ取り調べを行なった。しかし11才未成年ということでとがめられず、注意で終わったらしいが、いい迷惑である。しかも3人のグループであった。少年の集団での観光客をねらったスリは多いという。

1/18(金)曇り
大会前日。メキシコチームとの親睦も深め、合同練習を行なった。
またこの日から合流した内田先輩にも久々にお会いでき、チーム内に士気が高まる。
多少の疲労感はあるものの大会に向け盛り上がった内容であった。
夕方になると、各国から大勢の選手がホテルに集まっていた。
今大会のエントリー数63カ国。74カ国ものエントリーがあったが、多過ぎた為レベルの低い国14カ国は断ったと程という。
選手650人。役員300人。世界大会同等の規模である。
今大会はTV中継もされ、ヨーロッパスポーツという番組でベスト8からの放送を1時間テレビ中継されている。
その他、4局ほど各国から放映するという、大きな大会である。日本では考えられぬ程、ヨーロッパでは空手が市民権を得ている感じがした。

1/19(土)大会初日
6:30起床。朝食後、7:45バスにて大会会場であるクーベルタンスタジアムに移動。
いよいよ大会が開始された。
しかし、新ルール未経験者多数の為か日本に勢いがなかった。
まず、−80kg国分利人選手2回戦でエストニアに(0−1)で惜敗。続く+80kg金澤伸明選手4回戦まで進むもグリースに(5−8)でこれまた惜敗。女子−60kgの岩切加奈子選手は4回戦、快進撃を続ける地元フランスに(0−8)で敗れ、敗者復活に挑むも善戦むなしくドイツに(0−5)で敗れた。
−65kg藤村選手、−75kg森敏浩、女子−60kg田中佳代子、女子+60kg笹有紀子選手、佐藤愛美選手ともに実力を発揮できず敗退。ここで流れを変えるべく男子形長谷川行光に期待がかかる。
男子個人形エントリー数38ヶ国。当然新ルールの為、優勝するまでに5つの形は必要である。
判定はフラッグ(旗揚げ)方式。
私、長谷川は1回戦不戦勝の後、4回戦までヨーロッパ勢を(3−0)で下し準決勝進出。対ベネズエラ戦でまさかの(1−2)で負け。
結局ベネズエラが1位、フランスが2位。日本は3位であったが、苦味の銅メダルであった。
日本チームに勢いをつけたかったのだが金メダルを獲得出来なかった事が悔やまれた。

1/20(日)大会2日目
日本チームが奮起する。
まず−53kg宮本佐知子選手が4回戦までヨーロッパ勢を相手に順当に勝ち進み、準決勝でトルコを(5−3)で破り決勝進出。決勝は対カナダ。BGMで入場、スポットライトの下、派手なアナウンスによって一人ずつ紹介され、まるでエンターティナーショーで始まるこの如く派手な演出と、8000人の観客の注目の中行なわれた。緊迫した試合内容であったが惜しくも(1-0)で銀メダル獲得。
続く−70kgにおいては、日本から崎山幸一選手、樋口大樹選手の2名がエントリーしたが気迫のこもった試合内容であった。まず樋口選手は冷静な試合運びで4回戦まで僅差ながら勝ち進み、直後に始まった準決勝オランダ戦、4回戦の疲れが回復しないままで体力を奪われ(1−7)で惜敗。しかし3位決定戦では回復し、見事イギリスに(4−2)で快勝。うれしい銅メダルを獲得。
同階級別パート出場の崎山幸一選手も燃えた。4回戦まで蹴り技で海外選手と互角以上に応戦し、スピーディーな攻撃で勝ち進む。が,毎回受けた左顔面への痛打で左まぶたから流血。準決勝はフランスと対戦し(0−5)で敗れたが、3位決定戦でオランダと対戦。またしても顔面痛打により流血。気迫のこもった試合内容と態度に観客から「サムライコール」が。そして(7−6)まさに気迫の勝利でこの階級は樋口選手とダブル銅メダルを獲得した。
ちなみに崎山選手は試合後病院直行。左まぶたは上3針、下2針。合計5針縫う怪我をしていた。
−60kg阿部恭久選手、オープン仁木孝博選手は僅差で敗退。
女子オープン期待の渋谷明美選手は3回戦ベルギーと(4−5)の惜敗に涙をのんだ。
女子形の若林春日選手に波乱が起こった。2回戦対メキシコ戦で(1−2)でまさかの敗退。
新ルールでは1,2回戦は指定形であったが、前日全て自由形と変更があったが、あえて指定形で挑んだ若林選手であったが、軍配は自由形をうったメキシコに上がってしまった。
しかし冷静さを取り戻し、敗者復活では3試合を全て(3−0)で勝ち、銅メダル。
終わってみれば銀1、銅4と前大会を上まわらなかった結果となった。
地元フランスは金メダル5ヶ、銀5ヶであった。
しかし選手にとっては新ルールを肌で感じる事のできるよい経験となった。

大会を振り返って
新ルールにおいて組手は明らかに突きからの投げ技、蹴りからの投げ技のコンビネーションが多用されているようである。フルタイム闘う体力も当然必要である。
形については3人の審判人による判定では得点方式の時よりもどの流派から見ても比較しやすい所(大きさ、パワー、スピード、極めの強さ)がポイントなのかと感じた。日本的な流派の特徴、緩急や正確さ、無駄のない動作よりも印象度が大きいほうが有利なのか?といっても日本らしさは当然必要だと信じているが、パワーも合わせて必要だと感じた。
また、形自体に流派がない形をうつ選手が多く感じた。
今回ヨーロッパ色の濃い内容であるとは感じたが、言い訳に感じる方もおられると思うが敵地での戦いでは審判員によって十分勝敗をコントロールされる様にも思えた。
実際日本からの審判員がいなかったことも、心なし寂しく感じた。
しかし我々ナショナルチームの使命は世界大会で優勝することであり、今回の反省点を今後の稽古に生かし、新ルールの把握(経験)と情報を選手自ら集め、行動する事がヨーロッパ主導型ともいえる新ルールの中で勝つ為に必要である感じた。

フランス空手道連盟まめ知識
フランス空手道連盟の会員は驚いたことに20万人。会費が年間3,000円で6億円。
さらに国の補助金3億円。約10億もの予算で運営していることを中橋先生よりお聞きし、驚いた。フランスのなかでは空手は国のいわゆる文部省の管轄であらゆる流派、会派を問わず、フランス空手道連盟に会員登録する法律になっているという。日本では会派の問題もありとても真似できるものではない。ナショナルチームも各階級5名ずつおり、なんと選手、コーチには給料が支払われているというのだ。今大会も海外選手の宿泊、食費、運営費で約2,000万円の赤字になるらしいが連盟予算でまかなえるというのだ。
また大会会場は8,000人の観客動員数があり、しかも有料でである。
日本の東京レディス大会を見る限りでは盛り上がりにかけるのが選手としても残念ではある。


大会終了日夜は選手コーチ全員ホテルで打ち上げ。
そのあと入賞者5名にご褒美があった。内田先輩がパリの名物、「リド」の高級ダンスショーに西村コーチと共にご招待頂いたのだ。選手は皆、内田先輩の懐の深さを感じたに違いありません。
シャンパンとワインを飲みながらショーを見物。均整のとれたプロポーションの女性が宝塚のようなダンスを振舞う。全員上半身は着ていないのだがいやらしさは無く、芸術的な感覚を覚えた。
試合のプレッシャーと、シャンパンが進み、K,W選手がハイになってしまったから大変。
酔い覚ましに2次会のコーヒーショップでも周りにいる人が危険で大変だったとか。
違う一面を見れた方はラッキー。
最終日は、夕方の便までの自由時間を「のみの市」に出かけ、みやげ物を見て回った。
 終わりに今大会に際し、航空チケットの取りまとめや選手状態を把握し、盛り上げる指導をして下さった西村先生をはじめ、冷静に的確なアドバイスをして下さった松本先生。選手に近い立場から助言いただいた内田先生。選手は安心して調整が出来ました。そして何より今大会へのお誘いと
宿泊、食事、練習会場等大変お世話になった中橋秀利先生。最終日もバスに乗るまでわざわざ見送りに来て頂いたフランス連盟のジャックさんにも選手を代表して感謝の意を表したいと思います。
大会で学んだ事、試合以外にも学んだ人との和を大事にし、これからも日本の代表として恥じることの無い態度で精進していきたいと思います。


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