西村誠司組手組手テクニックセミナー指導内容

「運動の特異性」という観点からすると、空手道の技に使われる筋肉を鍛えるには、それぞれの技に近い状態で鍛えることが必要になります。その目的に最も適した方法にチューブトレーニングがあります。今回はその1)特性、2)ポイント、3)具体的方法について解説します。

チューブトレーニングの特性

チューブトレーニングには3つの特性があります。
その第1は、負荷の強度を自由に設定できるということです。チューブトレーニングではゴムの張力が負荷となるため、チューブを短く持ったり、束ねたりすることで負荷の強度を自由に決められます。したがって、個人の筋力に合わせた微妙な調節が可能になります。またチューブトレーニングではチューブを引くにしたがって負荷が大きくなるため、動作の開始から後半に向かうにしたがって大きな力を発揮することになります。このため、チューブトレーニングは筋力の加重を身体で感じながら一つの技に関連した一連の筋肉を鍛えるのに適しています。

一つの技に必要な筋肉は、続けてタイミングよく収縮させると、それらの筋力が加重(プラス)されることによってパワーアップすることができます。例えば、突きの基本練習を前屈立ちでする場合、腕だけで突くよりも、後ろ脚をしっかりと張り(伸ばし)両脚の筋肉をしっかりとしめながら腰をひねり、素早く突いた方がパワーアップできます。それは腰をひねる筋力が突きを突く腕の筋力に加重されていくためです。ですから、全身を使わずに腕だけで突いたのでは、チューブの張力に負けてしまい、悪い癖がついてしまうこともあります。

一方、チューブトレーニングに反して、空手道競技では突きや蹴りなどの動作の始めに大きなパワーを発揮する必要があります。この方法に最も適したトレーニングとしては脱力をする練習や、プライオメトリックトレーニングがあります。

チューブトレーニングの第2の特性は、負荷の方向を360°自由に設定できることです。チューブを上に固定すれば引き下げる動作、足で踏むといったように下に固定すれば引き上げる動作、さらに2人で行なえば、捻りを加えた動作も簡単に行えます。つまり、ベンチプレスのような一方向への動作に限定されず、全方向に負荷をかけることができるのです。

チューブトレーニングの第3の特性は、重力に左右されないということです。例えば、ダンベルを持って突きの練習をしても、ダンベルの重みに対して腕を上げる力、特に肩に力が入ってしまうため、効果が上がらないだけでなく悪い癖がついてしまうこともあります。ですから、突きを正しい方向に突き出す筋力を養うには重力がほとんどかからないチューブを使ったトレーニングがより効果的だといえます。

要するに、チューブトレーニングの最大の利点は、どんな動きにも自由に必要な負荷をかけることができることで各動作に特化した一連の筋肉群を効果的に鍛えることができ、さらにそれらの筋力の加重を身体で感じることができることです。

チューブトレーニングのポイント

基本的には8〜15回できるチューブの長さから始めます。筋肉が緊張しておかなくてはいけない状況のときに弛緩していると捻挫や肉離れを起こすことがありますので安全面には十分注意し、フォームがみだれないように行ないます。特に狙った箇所以外の筋肉も動員している可能性も高いので、肉離れなどを起こさないように注意します。

速い動作でチューブを引くと動作の後半に急激に張力が強まるため、急に力を抜くと動作と逆方向に引っ張られます。こうした負荷の特徴に十分慣れ、特性を上手く生かしながら実施する必要があります。また、力が発揮される軌道とチューブが伸びる軌道とが一直線になるように負荷をかけなければ、正しい方向へ力を導くことがでませんので注意して下さい。

トレーニングメニュー

1. その場腕振り
チューブを踏んで肩幅で立ち、両腕を真横にゆっくりとできるだけ引き上げ、ゆっくりと戻します。
2. スクワット
チューブを踏んで両足を揃えて立ち、次に写真2Bのように上体を起こします。胸を張り、背中を曲げないように上体を起こさないと、腰に負担がかかりすぎるので注意して下さい。
3. 横倒し
スクワットの伸びた状態から、左右交互に引き上げます。これも胸を張り、背中を曲げないように注意します。
4. シャドーボクシング
背中からチューブをまわし、ステップワークを十分に使ってシャドーボクシングを行います。技の力が発揮される軌道とチューブが伸びる軌道とが一直線になるようにします。
5. 突き
深い前屈立ちから、しっかりと手首と脇をしめて逆突きをし、次いで突いた腕をゆうくり戻しながら、順突きを行います。後ろ脚をしっかりと張り(伸ばし)両脚の筋肉をしっかりとしめ腰をひねりながら突きます。この時、脚の筋肉がゆるみ前かがみになって上半身だけで突かないように注意します。
6. 引き拳
深い前屈立ちから、手首と脇をしめて前拳を引きながら、ゆっくりと逆突きをし、次いで突いた腕をゆうくり戻しながら、順突きを行います。上体が後ろに反らないように注意します。
7. 移動基本
深い前屈立ちから、腰を浮かさず沈み込むような逆突きで前進します。
8. 腕の屈曲
背中を真っ直ぐ伸ばして四股立ちになり、腕の力でチューブを顔の前に引き寄せます。引き手は腹筋を使って、チューブの負荷を調節します。
9. 膝上げ
前屈立ちの後足の膝を素早く上げます。蹴り足を上げることを素早く繰り返すことによって出足のスピードや軸足と蹴り足の筋力の加重を身体で感じることができます。
10. 四つんばい膝上げ
四つんばいの状態から、腹筋を十分に使って膝上げを素早く行います。
11. 前蹴り
チューブを足に巻きつけて、正しいフォームで前蹴りを行います。体勢が崩れないように注意し、引き手は前蹴りが途中で止まらないようにチューブの負荷を調節します。
12. クロス引き上げツイスト
両足に引っ掛けたチューブをクロスさせて、腹筋のみを使って上半身を左右交互にゆっくりねじります。この時、下半身は一切使わないようにします。
13. ジャンプ
前方に大きくジャンプし、止まらずに連続で行います。引き手は相手が跳ぶ瞬間にチューブを引っ張ります。
14. 抵抗走
前方に全力でダッシュします。引き手を引きずりながら15秒間走り続けます。これは推進力の養成に有効です。

<チューブ購入>
スポーツ店でも販売していますが、自転車屋にて古チューブを分けて貰えます。その際は、金具の所は切り落としてください。

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